大阪高等裁判所 昭和57年(行コ)62号 判決 1983年3月16日
大阪市東淀川区淡路二丁目五番二号
控訴人
西岡繁子
右訴訟代理人弁護士
北尻得五郎
同
松本晶行
同市淀川区木川東二丁目三番一号
被控訴人
東淀川税務署長
木川義照
右指定代理人
浅尾俊久
同
国友純
同
武宮匡男
同
島村茂
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立て
一 控訴人
原判決を取消す。
被控訴人が控訴人の昭和五〇年分の所得税について昭和五四年三月一四日付でした更正処分のうち税額二七六万七、七〇〇円を超える部分および過少申告加算税賦課決定処分(いずれも国税不服審判所長の裁決により一部取消された後のもの)をいずれも取消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二主張
当事者双方の主張は、次のように付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人の主張
所得税法(以下「法」という)五八条一項は、資産の移転があった場合でも従前の所有状態と実質的に異る状態が創りだされないときは、交換価値が顕在しないから課税外と定めているのであって、右は課税の本質上当然のことを規定しているにすぎず、課税の特例を定めたものではない。したがって譲渡所得に対する課税は形式的にも実質的にも資産の譲渡があった場合に限られ、形式上はともかく実質上控訴人の資産は譲渡の前後を通じその状態が異らないから課税外となるのである。もし資産の移転につき合理的理由もないのに課税と非課税とに分類するとすれば、憲法一四条の法の下の平等に違背する差別を設けるものであるから、その根拠が明らかにされなければならない。
二 被控訴人の主張
譲渡所得課税の対象となる資産の譲渡とは、資産の移転を目的とする一切の行為を指称し、法五八条一項に該当する場合であっても、本来は譲渡所得が発生するのであるが、政策的配慮に基く例外として、法は五八条一項所定の要件に適合しかつ同条三項の申告のある場合に限り当該交換につき譲渡がなかったとみなされ、課税が繰延べられるにすぎない。したがってこの場合でも、従前の取得価額を引継ぐことにより(所得税法施行令一六八条)、交換取得物件をその後譲渡する際に一括して譲渡所得の課税が行われるのである。
第三証拠関係
原審訴訟記録中の証拠に関する目録の記載を引用する。
理由
当裁判所は、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のように訂正、付加するほか原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
一 原判決一一枚目裏二行目の「支払う」から四行目末尾までを「支払ったこと」に、同六行目、一三枚目裏三行目、八行目、一四枚目裏一一行目の「九、四六二万円」を「九、四五〇万円」に、一三枚目裏五行目の「八、七四〇万八、七九七円」を「八、七二八万八、七九七円」に、同六行目の「四三七万四三九円」を「四三六万四、四三九円」に、同七行目の「一、一五八万一、六四二円」を「一、一五七万五、六四二円」に、同八、九行目、一四枚目裏七行目、一一、一二行目の「一、九九二万五、〇〇〇円」を「一、九八六万五、〇〇〇円」に一三枚目裏末行目、一四枚目裏一三行目の「九一四万二、七八九円」を「九一四万二、三〇七円」に、一四枚目表二行目の「前掲乙第一号証」を「成立に争いのない乙第一号証の一、二」に、同裏四行目の「三、九八五万円」を「三、九七三万円」に、同五行目の「一、〇一二万円」を「一、〇〇〇万円」に、同一二、一三行目の「七、四六九万五、〇〇〇円」を「七、四六三分五、〇〇〇円」に、同末行目の「六、五五五万二、二一一円」を「六、五四九万二、六九三円」にそれぞれ訂正する。
二 原判決一〇枚目表四行目の次に、次のように加える。
控訴人は、所得税法五八条一項は資産の移転があっても従前の所有状態と実質的に異る状態が創りだされない場合には課税しない旨定めたものであって、資産の交換は本来課税されないものであり、これを課税と非課税に分かつのは憲法一四条の法の下の平等に違反する、と主張する。
しかし所得税法五八条一項の資産の交換も、同法三三条一項の資産の譲渡に包含されるものであることは前記のとおりであり、同法五八条はこれを前提としたうえで、資産の交換における担税力の特殊性に着目し、取得資産が種類、用途、価額等からみて譲渡資産と同一視される一定の場合に、その取得資産が譲渡されるときまで、課税の繰延を認めるものであって、右課税繰延規定に格別不合理なところもない。控訴人の主張は独自の見解に基くものであって採用できない。
よって、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 仲江利政 裁判官 蒲原範明)